コスパより時短より、美しく生きたい。~パンとスープとネコ日和を見て~

小林聡美さん主演の『パンとスープとネコ日和』を見ました。一つ一つの出来事やセリフが命を持って循環しているところを切り取って見せてもらったような、「ああ、そうそう、日常ってこうだったよな」と感じる、素晴らしい作品でした。

この文章はネタバレ的なものが皆無とは言えないと思うので、気にする方は一応ご理解ください。(ネタバレがどうとかいう作品ではないと思うのですが)

人と人との物理的・心理的・感性的距離が変わってしまった2021年現在に見たからというのもありますが、もっと根源的な部分での「ああそうそうこうだった」という感じで。

4話で終わってしまう作品だけど、彼らの日常はずっと続いていくんだとはっきりと感じられるというのは、きっとこの作品の現場に人の命があったからじゃないかと僕は勝手に思っています。物語はそれほどにわざとらしい出来事が「用意」されているわけではないなだらかな雰囲気ですが、たった4話で彼ら・彼女らの何かが変わったのだとわかります。わかる人にはわかるしわからない人にはわからない、そんな穏やかで大きな変化がそれぞれの人たち(ネコたち・植物たち)に起こり続けています。

例えば、日常会話って大きな宇宙と小さな宇宙のコラボレーションだから、言葉が途中で遮られることもあるし、だからこそ伝わることがあったりする。話し出そうとするとお客さんが来て、それによって大事なことが一気に解決しちゃったりする。そういう不思議だけと面白いものだったなぁって、しみじみ思い出したんですよね。それくらい、僕と宇宙の循環が途切れて不自然になっていたのかもしれません。

フォルムやポーズの複雑さではなく、ただその存在に見惚れてしまう彫刻ってありませんか? 美しい器とかでもそうですね。手触りがなんとも言えない気持ち良さで、「ああ…」ってなる感じ。今思い出しても全身が心地よく痺れるような美しいドラマでした。

人の日常には解釈の正誤を超えたリズム・波があって、僕たちはそういうものに貫かれて動いています。小沢健二さんが『天使たちのシーン』で歌っているように。

そういったリズムや波を「解釈」しようとしても見落としてしまうものがたくさんあります。別にいいのだけど、見落としたくないなら血眼になって見つめるより眺めることですね。それを『パンとスープとネコ日和』は教えてくれました。小林聡美さん主演の他の映画作品、『プール』や『かもめ食堂』、『めがね』などはそういうところがあって、そこにある光を眺め、響きを味わうことが生きるってことだったなって、思い出させてくれます。

ある場面で登場人物たちがダンスします。あれはまさに人の動きや表情のプロセス・響きをただ眺める時間で、伝わるものをそれぞれに受け取ってね、ということなんだなぁと楽しく嬉しく眺めていました。幸せな時間でした。そして今こうしてブログを書きながら何度もあの感じを味わっているというのは、もう僕の中にあの響きがあるということで、もう…ありがとうございます!という感じです。

で、タイトルの言葉ですが、今朝モーニングページで自分なりに丁寧に、習字のことを思い出しながら字を書いていました。一時間くらいかけて。そうしたら、どうしても字が雑になる自分に気づきました。これは「早く書き終えたい」という欲求です。理由を見てみると「書くのが面倒くさいから」「早く書き終えて他のことがしたいから」でした。じゃあ書き終えてからやりたいことが心からしたいことなのかと言えば、そうでもない。結局「しなきゃならないから」という意識とつながっているだけ。しなきゃならないことをしたらどうなるのかと言えば、別にどうってことないからです。少なくとも僕がこの世界に生まれてきた意味に直結していることではないのです。つまり、「しようもないことのために急いでいた」んですね。

早く書き終えたいと思いながら字を書いている、というのは、現代多くの人がいろんなレベルでしているんじゃないかなと思います。だからコスパや時短という言葉が溢れてくる。

だけど、字を美しく書くことが喜びになっている瞬間はコスパや時短を考えない。早く書き終わりたいという意識はやってこない。字を書くという営みと自分が一つになっている感覚。その時、結果的に美しい字がそこに生まれていることはあっても、それを正しいとか間違っていると判断するために字を書いているわけではないのですね。

だから、僕はただ美しく生きたいんだな、とようやく気付いた感じです。40歳の男、美しく生きようとし始めました。まだ人生初心者ですが、今日もよろしくお願いします。

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